「経営学習論」

「人材育成を科学する」というサブタイトルに引かれて読んだのですが、あまり科学的とは感じられず残念でした。一般的に目にする情報は根拠の脆弱な自己啓発的や精神論的(悪く言うと半ば宗教的)なものばかりなので、この分野における今後の科学的進歩を強く望みます。
以下、気になった箇所のみ、備忘のために記しておきます。

  • 「入社後3年間の垂直的交換関係が、入社13年目の昇進、給与、賞与などに影響を及ぼしていることがわかっている」とあるが、詳細は出所の「組織心理学」第10章を当たってみる必要がある
  • 「OJTがうまくいっている職場では、OJT指導員が自ら指導を行う一方で、周囲の人々に声かけを行い、OJTに協力するよう働きかけ、新人はこれによって様々な他者からフィードバックが得られている」(出所:「職場学習の探求」
  • 「先輩指導員が周囲の協力を得ながらOJTを進めることと、新入社員に対して親しく会話することが、新入社員の「能力向上」につながる効果があることが明らかになった」
  • 「新人の離職や不適応につながる原因には過剰負荷の問題がある。つまり、職場の様々な他者から、別々に業務付与が行われ、かつ上司ないしはOJT指導員が全体の仕事量をコントロールしていない場合に、職場のなかにおいて最も権力を持たない新人は、付与された仕事をすべてこなさなければならない状況に置かれる」というのは、「最も権力を持たない」人に共通する
  • オットー・フリードリヒ・ボルノーは、「「経験」の概念を、語源学的に探究し、1)「旅」「遍歴」「彷徨」、2)「苦痛」「忍耐」、3)「賭け」という3種類の異なる位相の交点に見いだ」しており、「否定的な裁きをへてのみ、人は新しい経験に達する。経験の名に値するものは、みな、期待を裏切っている」というハンス・ゲオルク・ガダマーの言葉を引用している
  • 「社会人経験が浅い頃は具体的経験を積むことがまず重要である。しかし、社会人経験がある程度の段階に入ってくると、今度は経験学習行動の諸要素をバランスよく担っていくことが、重要であることがわかった」(注:経験学習行動の諸要素とは、「具体的経験」「内省的観察」「抽象的概念化」「能動的実験」のサイクルの諸要素のこと)とあるが、「抽象的概念化」の能力には個人差が非常に大きいように思われる
  • 「営業職では「具体的経験」に加えて、「内省的観察」「抽象的概念化」という経験則を自らまとめる行為が重要であることがわかった」「特にスタッフ職と営業職の比較においては、「抽象的概念化」の果たす役割が営業職においては特に高いことが示唆的である」というのは確かに意外な印象を受けた
  • 「平成24年就業構造基本調査」によると、過去5年間の転職就業者は11,905千人、有業者に占める割合は18.5%であり、ともに平成19年より減少している