「新・日本の階級社会」


日本人は、近年急速に階級分化が進んでいるのに、それをまだ意識できない(許容できない)でいるのではないか?という仮説を抱いたので、読んでみました。
しかし、そうではないことがわかりました。

  • ジニ係数で見る限り、日本の格差拡大が始まったのは1980年前後(私が中学生になる頃)
  • 自分を「人並みより上」と考える人の比率は、1975年では富裕層44.5%、貧困層17.2%だったのが、1995年には富裕層57.9%、貧困層13.9%へ、2015年では富裕層73.7%、貧困層10.0%へと差が拡大した。
  • 「年齢、教育年数、個人収入、職業」の4つが階層帰属意識に及ぼす影響を示す決定係数は、1975年の0.04から2015年の0.2へ上昇した。

つまり、「階層帰属意識は、現実の豊かさの序列に沿ってきれいにわかれるようになった。階層帰属意識が階層化した」と言えるようです。
「一億総中流」論を形成するのに役立ったのは、1977年に朝日新聞に掲載された「新中間階層の現実性」という経済学者の小文とのことで、それからほどなくして格差拡大が始まったということになります。
なお決定係数に関しては、それでも1955年の0.365よりは低く、そもそもかつては経済的豊かさによって階級が現在より強く意識されていたと言えます。

格差に対する「自己責任論」については、2015年調査で、貧困層でも44.1%が自己責任論を肯定しています。
「貧困になったのは努力しなかったからだ」と考えるのは、「とてもそう思う」と「ややそう思う」を合計すると、「新中間階級」(管理・監督者)の42.1%に対して「アンダークラス」(非正規労働者)は37.3%と下がりますが、顕著な差とまでは言えないように思います。「パート主婦層」では28.8%で、顕著な差を示しています。
自己責任論を広めたのは、経済戦略会議が1999年に出した答申「日本経済再生への戦略」であるとのことです。その後、2008年に初めて「広辞苑」に収録されたようです。

他に興味深かったのは、自営業者の「旧中間階級」が衰退を辿っているということ。1950年には自営業者層が全体の13.3%、農民層が45.2%を占めていましたが、2010年では自営業者層が8.3%、農民層が3.2%と激減しています。これらはともに、セーフティネットの役割を果たしていたはずです。
フリーランスというのは、結局、これらに代わる存在として政府が後押ししているということなのでしょう。それは「生活への満足度」(≒所得水準)は高くないものの、「仕事の満足度」は高い層を形成するとともに、社会保障等の「公助」を抑制します。

全体としては、「格差は是正されるべき悪」という立場の本なので、全てを読み通したわけではなく、第4章以降は興味のあるところだけをつまみ読みしました。

結局、階級分化は40年前から始まっており、それをようやく認識したというのが現在の状況なのでしょう。
私の仮説は、自身の階級意識が明確であれば、他の階級に対して妬んだり批判したりすることが減るのではないかというものでしたが、そうではないようです。

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