「日本の消費者はどう変わったか」

野村総研が1997年以来3年毎に実施している長期時系列調査「生活者1万人アンケート」をまとめた本。手間のかかる訪問留置式での調査を続けているのは貴重です。
以下、興味深かった内容だけピックアップします。

  • 「一流企業に勤めるより自分で事業をおこしたい」は若年層ほど減少基調
  • 「役職や肩書がほしい」は若年層ほど増加基調
  • ”「学歴はないけれど、人間力で成功しました」というようなサクセスストーリーを、親も子も素直には信じられなくなってきている”
  • ”一見高年齢層で強そうな価値観である「世間体を気にしてしまう」も、やはり若い人ほど強い”
  • 「生活の充実度」は若年層と高齢者層で2018年から顕著に低下しており、「生活満足度」は若年層のみ低下している
  • 15~29歳の若者における”人より先に新しいものを試す(そしてそれを流行として創り上げていく)”イノベーターの割合が2000年の13%から7%まで約半減
  • ”家計へのダメージをよりダイレクトに感じる層では、安い物を「買う」よりもむしろ、価格に見合っているかどうかを検討して、そうでなければ「買わない」といった、よりシビアな「取捨選択」が起こっている”
  • 「積極的にお金を使いたい項目」は2018年比で、「投資」が大きく伸びたのに対し、「人とのつきあい・交際費」が大きく減少
  • 結婚見込みは、男性でのみ正規・非正規で大きな違いが見られるが、子供を持ちたいかどうかでは、女性でも正規・非正規で大きな違いが見られる
  • 日本の婚外子の割合は2.3%で、米国39.8%、英国47.7%、フランス59.7%と比べて顕著に低い

全般を通して、短期的なコロナ禍や、長期的な経済の停滞のしわ寄せを、若年層ほど強く受けていると感じる内容です。失敗に対して不寛容な社会であることは、私が若者であった頃からほとんど変わっていないように思いますが、わかりやすい成長領域としてのフロンティアが大きく縮小した結果、リスクに見合うリターンが見込めるアクションが見当たらなくなってきており、リスク志向がより強まっていると解釈しました。近頃よく言われるタイパも、その文脈で理解すればよいでしょう。

ただ、金銭の現在価値は低成長ひいては無成長環境下では考慮する必要がないかもしれませんが、現在時間の価値が大袈裟に捉えられているように見えるのは残念に感じられます。確かに、25歳の1年は4%で、50歳の1年の2倍の重みがありますが、それだけの重みがあるからといって大事にしすぎて一定の確率で失敗を伴う探索活動を疎かにするよりも、その重みは将来において実感できるものと考えて探索範囲を広げる方向に動いてもらうことができないものでしょうか。大きなお世話なのでしょうが、将来振り返ったときに後悔のないように時間を使ってほしいと願わざるをえません。