「アイデア資本主義」
私と同じ人類学研究室出身の人が書いた本なので読んでみましたが、まとめのための繰り返しの説明が多く、目新しい内容も少なかったので、短時間で一気に読んでしまいました。私にとって目新しい着眼点は、「時間のフロンティア」ぐらいです。
時間のフロンティアが消滅し、インボリューションとして「いま」が細分化されているという見方は、なるほどと頷けました。
ただ私は、資本主義が「投資」を前提にしたシステムであり、リスクに見合うリターンを中長期的に期待できる「フロンティア」が少なくなっている結果、全ての投資(会社や個人自らによる人的投資を含む)が刹那的になっているのだと受け止めました。
中長期的な成長投資が期待できない状況においては、確率的に低い手でも乱発し、偶然捕まえた「勝ち」を最大化することで勝ち逃げするのが、合理的な選択になっているということ、それが著者の言う「アイデア」であり、それを顕著に示しているのが YouTuber なのだと思います。その意味で、巻末に書かれている船曳先生の「わらしべ長者」と根本的に変わるところはありません。
フロンティアの消滅はゼロサムゲームを意味するのであり、アイデアによってプラスサムになるとは私には思われません。にも係わらず「アイデア資本主義」とネーミングするのは、前段の資本主義におけるフロンティアの消滅に関する説明から論理的に飛躍していると感じました。これは、著者の現在のビジネスに結び付けたいという意図もあるのだろうと思いますが。
また、ゴーイング・コンサーンを前提とした会社という共同体が、中長期的な成長を前提にできなくなったことも、全ての投資が刹那的になっている要因なのだと思います。
家族という共同体も、かつては次世代に資産を残すという前提が強く存在したように思いますが、長寿がもたらす経済的負担の大きさによって、世代間の資産移転が前提となることは少なくなっているように思います。
そうした共同体としての会社や家族が、フロンティアの消滅によってどこへ向かうのかの方が、人類学を学んだ私には興味があります。