「知的戦闘力を高める独学の技法」

この本はまさに自分の考えていることを言語化してくれているので、スラスラと一気に読めました。そのぶん、読みながらあまり思考していないともいえますが。
冒頭にある論語の引用が全てを表しているように思います。

子曰わく、学んで思わざれば即ち罔し。思うて学ばざれば即ち殆し

「論語」

また、ジョブズの次の言葉も真なりでしょう。

将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。
できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。
だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。

スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での卒業スピーチより

コンサルティングや部下の指導において有用な情報や伝え方をメモしておきます。

  • 独学の方針はテーマを決めてから、ジャンルを決める。テーマとは、自分が追求したい論点=問い。
  • 独学の戦略を明確化していると、偶然出会った情報に対し、「これは自分にとって重要な情報だ」と反応できる。
  • スタンフォード大学ジョン・クランボルツ教授の調査によれば、成功したビジネスパーソンのキャリアの8割は偶発的な出来事によって形成されている。
  • ジョブズは「あなたはどうやってイノベーションを体系化したのですか?」と聞かれて、「そんなことはしちゃだめだ」と即答している。
  • UCデービスの心理学者ディーン・サイモントンは、「イノベーターは成功したから多く生み出したのではなく、多く生み出したから成功したのだ」と指摘している。
  • アウトプットし続けている人は、人生のどこかでインプットし続けている時期がある。
  • 公理系を導くのが抽象化、公理系からさまざまな命題を演繹するのが構造化。

私が最も指導することが難しいと考えていて、著者も方法論の提示に苦労しているのが、抽象化です。著者は、抽象化はひらめくもので、場数を踏む以外にないと書いていますが、誰でもひたすら訓練すればできるようになるのか、私は疑わしいと思っています。実際、戦略コンサルティング会社でもこれができない人は多かったので。
であるがゆえに、次の引用のとおり、これこそが人間の持つ高度な知性なのだと思います。

抽象能力は、人間の能力の中でもとりわけ高度で、非常に多くのイノベーションを生み出す核となる能力です。
また、コンピュータで代替することは不可能だろうと考えられている能力です。
なぜコンピュータには代替が不可能かというと、「抽象」という活動には、枠組み(フレーム)が与えられていないからです。

新井紀子「コンピュータが仕事を奪う」