「組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ」
「自由になるための技術 リベラルアーツ」で紹介されていて、「失敗の本質」に対するアンチテーゼという触れ込みだったので、期待を膨らませて読んだのですが、全くの期待外れでした。「失敗の本質」で「非合理的」「精神的」と言っていることを、「不条理」「限定合理的」と言い換えているだけに過ぎない印象です。取引コストなどを持ち出していますが、メリットとデメリットを確率と合わせて定量的に論じることができなければ、その判断が限定合理的であったかどうかすら本来は論じられないでしょう。事後的な分析でも難しいのに、意思決定において得失や確率を定量的に事前予測することは、そもそもほぼ不可能です。大東亜戦争に突入した時点で既に、わずかでも勝利の可能性がある戦術を取る以外に選択肢がなかったことは事実であるにしても、ガダルカナルやインパールであれほどの無駄死にをさせずに済む、より合理的な判断はありえたのではないかという観点での考察がほしかったと思います。
まぁそこまではよいとしても、「歴史的不可逆性」に抗して、不条理を回避するためには、人間は完全合理的でなく限定合理的であることを認識して、組織が「批判的合理的構造」を備えるべきとし、企業の事例を挙げていますが、これらの事例の挙げ方がいかにも経営書にありがちな確証バイアスに陥っていて、科学的とは全く感じられません。企業経営の短い期間をもって良し悪しを判断することはできないし、短い期間で判断するなら、「勝利主義」「集権主義」「全体主義」で成功している事例も多数挙げられるはずです。
この本を読んで得られた新たな知識としては、奴隷制度において主人の方が奴隷に搾取されていたケースも多かったという主張があること、また、ジャワにおける教育投資は多大な負担であり、軍中央からも強く批判されていたということぐらいです。