「ルポ デジタルチャイナ体験記」
簡単に読める本で、中身の濃い本ではありませんが、予想以上に気づきがありました。コストパフォーマンスは良いといえるでしょう。
現地取材は2019年7月とのことですが、この時点で実際にふれることのできたテクノロジーは、「休止中」「使っていない」「壊れている」ものなど「見かけ倒しのハリボテ」と著者が評するものが多かったようですが、それがむしろ著者の次のような見解につながっています。
たとえ完成度が低くても“炎上”するケースはまずない。自己責任に委ねられているというと冷たい社会のようにも思えるが、自己裁量の幅が広い社会ともいえる。
(略)
日本社会のサービスは非常に洗練されているが、一方では、未熟なサービスを世の中に出しづらい環境なのかもしれない。多少の失敗は大目に見る世の中のほうが、イノベーションは起こりやすいのではないだろうか。
この本を読んで改めて気づかされたのは、中国の方が日本よりよほど合理的であり、日本はいまだに精神論がはびこり、自身を神様だと勘違いしている「お客様」が幅を利かせているということです。現在のコロナ禍において小売店で横暴に振る舞う客がまさにそれです。著者は「“性善説”やモラルに基づいた制度というものは、結局モラルのない人が得をすることになってしまい、公平さを欠くのではないだろうか」とも述べていますが、そろそろ日本も、「道徳心や倫理観ではなく“損得勘定”に根ざした仕組み」に移行すべきなのだと思います。そう考えると、確かに著者が次のように述べているとおり、芝麻(ゴマ)信用も悪くないものに思えてきます。
信用スコアは個人を格付けするようであり、抵抗を感じる人もいるかもしれない。だが、少なくとも現時点のゴマ信用は、そこまで強い意味合いはないようだ。
一定の信用力を示す物差しではあるが、人間の値打ちといったものまでは測れないことは、みんな十分に理解している。だからこそ、気軽に教えあったりしている。
自身の行動が細かく監視されているようで、気持ち悪いと感じる人もいるだろう。それは逆に、ルールを守って正しく行動している人は、恩恵を受けられる社会ともいえる。