「日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点」

社会心理学者が書かれた本で、「「集団主義」という錯覚」と同様、「日本人=集団主義」ではないことが論じられています。「「集団主義」という錯覚」で対応バイアスとされている認知バイアスを「帰属の基本的エラー」と呼び、自分以外は個人主義者に批判的だろうという思い込みが、「予言の自己実現」によって増幅されることが示されています。

しかし、統計数理研究所の調査が示すとおり、日本人は和を重んじているというわけではなく、実際にはアメリカ人より他人を信頼しておらず、「人を見たら泥棒と思え」と考えていることが明らかにされています。そして、日本にあるのは安心を保証する集団主義社会であって、協調的行動が取られるのは身内の間に限られ、よそ者を信頼しているわけではないと論じています。これは確かに頷けます。

著者は、皆が協力し合えば全員が得をするのに、他人を信じられないために皆が非協力的行動をすることで全員が損をする状況がうまれることを、「社会的ジレンマ」と呼んでいます。また、徹底したモラル教育は利己主義者たちの楽園を作ることになりかねないとし、無私の精神を信頼社会に持ち込むとおかしなことになると述べています。ウイルス禍に晒されている日本は、国全体が集団主義の様相を呈していることで、現時点ではまだ非協力行動が「臨界質量」に達せず「社会的ジレンマ」には陥っていませんが、モラルや無私の精神で抑え込めると考えるのは楽観的にすぎるように思われます。ウイルス禍の後に「正直者がトクをする社会」に近づくとは、現時点では想像できません。

残念なことに、著者は2年前にお亡くなりになったようです。ご存命であれば、現在そして将来の状況をどのように論じたでしょうか。