「教養としての認知科学」

認知科学の教科書的な本。とはいえ、この本の前に読んだ「心と脳-認知科学入門」と異なり、読み物として退屈しない書き方になっています。

最も興味深く読めたのは、「第6章 ゆらぎつつ進化する思考」。以下、引用です。

「ある段階(注:子どもの発達段階)で特徴的とされる行為は、他の行為より頻繁に見られるという意味を持つだけであり、その段階の人間が必ずその行為を行うことを意味するわけではない。人間はある優勢な行為のパターンを持つが、それを逸脱するような別の行為のパターンも持っていて、その回数は少ないが、これらをも用いているのだ。もちろんこうしたゆらぎや変動は、文脈により誘発される。」
「ゆらぎのある準備状態の場合には、実際にうまくいくかどうかは別にしても、さまざまな認知リソースが利用され、各認知リソースに対してその実行結果に基づいたフィードバックが与えられることになる。何度もこうした状態を繰り返せば、筋のよい見込みのある認知リソースの強度が高くなる一方、見込みのない認知リソースの強度は抑制されることになる。ゆらぎのない状態では、そもそも試すべき認知リソースが限られているので、特定のリソースのみに集中的にフィードバックが与えられることになる。その限られたリソースの中に、次のステップにとって重要なものがない場合には、フィードバックを受けても、単にどうしてよいのかわからない状態へと子どもを導くことになる。」
「ゆらぎのある準備状態にある子どもたちは、経験から多くのことを学び、それを持続させることができる。」

これは大人においても当てはまることだと思うのですが、では「ゆらぎのある準備状態」をいかにして作り出すことができるのか、また同じ状態であっても発達の個人差が大きくなるのをどのように説明すればよいのか、については言及されておらず、消化不良となりました。

各章末に記載されているブックガイドが、認知科学の理解を深めるうえで非常に役に立ちそうです。その意味でも、「心と脳」より先に、この本を読んだ方がよかったと思いました。