「脳科学は人格を変えられるか?」

タイトルの意味するところは、人格全般を変えるということではなく、ネガティブな心の動きを司るレイニーブレイン(悲観脳)の働きをいかに抑えることができるかということになります。自己啓発本にありがちな、いわゆるポジティブ・シンキングとは異なると繰り返し述べられており、確かに一線を画すものだとは思いますが、そこまで科学的に深いと言えるかについてはやや疑問が残りました。

心のバイアスを修正する方法として、投薬やカウンセリング以外に、認知バイアス修正法とマインドフルネス法が紹介されています。
認知バイアス修正法は、1日15分から20分、週数回、患者がPCの前で受けるプログラムで、ネガティブな画像に視線が向かいがちなPTSD等の患者の注意を、自然とおだやかな画像に向くように誘導していくことで脳を再教育するものです。通院を必要するような人以外に対しても、例えば自宅や会社のPC上で行うことでも効果が得られるのか、興味があります。
マインドフルネス法は、自分の認識にラベルをつけることで、自分の感情を一定の距離を置いて眺めることができるようにし、感情を効果的にコントロールできるようにするものです。これは、俳句や短歌を作ることでも同じような効果が得られるのではないかと感じました。

人は、ポジティブな出来事よりネガティブな出来事の方により多く関心を払っているものですが、ポジティブな何かを意識して頻繁に見つけることでその比率を逆転させており、ネガティブな感情を1つ打ち消すためには2つ以上のポジティブな何かを経験するよう努力することが必要だと、最終章で述べられています。まぁそうなんだろうなぁとは思いますが、些細な出来事に対してまでニュートラルではなくポジティブに受け止めようとすることで、そうまでしてサニーブレイン(楽観脳)や幸福感を得たいかと言われると、何かそれはそれで自身を洗脳しているにすぎないように思われ、抵抗があります。幸福を追求しすぎるのも一種の中毒症状と言えるのではないでしょうか。

最後に、今まで知らなかった知識や記憶に留めたい内容について、備忘のため以下に記しておきます。

  • 生物学上好ましい経験を「気持ちよく」見せるのがオピオイドで、その経験を「欲して」反復させるのがドーパミン
  • エピジェネティクス(後成遺伝学)の研究によれば、遺伝子の作用は体験によって生きている間じゅう変化しうるのであって、その変化がDNAの配列に影響せずとも次世代に受け継がれる(豊凶作と寿命、低年齢での喫煙と肥満との関係に関する調査例の紹介あり)
  • 環境は、生まれ持った遺伝子の中でどれが発現し、どれが沈黙したまま終わるかに作用する
  • 母親がどれだけ愛情深く接するかは、ストレスに対する反応性に大きく影響する(ラットの実験例の紹介あり)
  • 記憶、特に感情にまつわる記憶は、思い出すときに再活性化され、一時的に変化を受けやすい柔軟な状態になることで、もとの記憶に新しい情報が加わることができ、オリジナル版とは微妙に異なる新しい版の記憶として脳にしまわれる。この再統合と呼ばれるプロセスはおよそ6時間続き、その間は記憶を変化させるチャンスの扉が開かれている。
  • 人生の舵は自分が握っているという感覚を持っていると、逆境から立ち直るのも早い
  • 悲観的な人々は、より悲しいが、より賢い