「「死」とは何か」

Amazonで読みたい本が買いづらい状況になったので、とうとう電子書籍専用でFire7を購入しました。2週間程度使用してみた感想としては、予想したほどは悪くないです。電子書籍用としてはこのサイズ・重さが限界だと思います。マーカーを引くのも最初は少しやりづらかったですが、慣れてきました。ページを行ったり来たりしないで読める本なら、買わなくてもこれで済みそうです。5,980円という価格なら大きな不満はありません。

使い勝手を知る意味でも何か読んでみようと幾つかサンプルをダウンロードしていましたが、前から興味を持っていたこの本がPrime Readingで無料ダウンロードできたので読んでみました。読んだのは日本縮約版です。日本縮約版に関しては、哲学的な内容というよりも、論理的思考を究める感じの内容でした。

この本に対して感じた最大の違和感は、人生の良し悪しを積分的に考えているところです。将来分も含めて時点時点のプラスとマイナスを積算した後もプラスの価値が残っていれば生きるに値するというのは、あまりに単純すぎます。プラスのものは時間とともに価値が薄れていくのに対し、マイナスのものはなかなか薄れない。プラスとマイナスでは償却期間が違うことを加味して、減価償却後の将来価値を考えるべきではないでしょうか。また、単に量的な観点だけではなく、微分的な観点も重要に思われます。右肩上がりの傾きが大きいときは満足感が高いのに対し、右肩下がりの傾きが大きくなれば、いずれはX軸を超えてマイナスに突入するのではないかという不安を感じるのは、まったく不思議ではありません。

私は、二度と再び手に入れることのできない、妻という大きな存在を既に失っています。これから何年生きようとも、彼女以上に価値のあるものを得ることはできないことがわかっています。彼女の価値が時間とともに減価していったとしても、そして独りで生きるこの先にどれだけ酷いことが起ころうと、彼女が私の人生に与えてくれたプラスの価値の大きさを考えれば、私が死ぬまでに価値の合計がマイナスになることは考えられません。でもだからといって、過去より小さなプラスしか得られないことがわかっている人生を生きる意義を見出すのは、とても難しいことです。死にたいと思ったことは何度もありますが、死なない理由は簡単です。死んでも彼女に会えるわけではないからです。ただ生きているだけのことに価値があるのかについて、著者は「人生自体にはまったく価値がないと考えている」と言いながら、多くの人にはこの先の人生にプラスの価値が待ち受けていると考えているであろうこと、さらに、そのプラスがごく僅かでもあれば自ら死ぬのは悪いことだと述べているのには肯けません。特に私が与せないのは、ほんの僅かのプラスでただ生きているというだけでも、長生きすること自体に価値があるかのような考え方です。なぜなら、それは妻の短い人生を否定することになりかねないからです。妻の人生をより価値あるものと受け止められるような内容を期待したのですが、やはりこの本の中にもありませんでした。この感情を他人に理解してもらうのは無理だということをつくづく再認識しました。