「「学力」の経済学」
「教育経済学」という耳慣れない学問の学者が書いた本ですが、一般的によく見られる経験論的なものと異なり、エビデンスに基づく論を展開していて大変参考になりました。エビデンスの解釈の正しさについての検証は置いておいて、社会人の学習という観点でも参考になる点を、備忘のために取り上げておきます。
- アウトプットよりも、インプットにご褒美を与えられた子供の方が、学力テストの結果がよくなった
- 成果そのものよりも、努力に報いた方が、組織の平均値は上がるのかもしれない
- アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるかを教え、導く人が必要
- 社会人の場合も、成果報酬だけ導入しても、指導者がいなければ効果が表れないのではないか
- ご褒美が子供の「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせてはいなかった
- この点において、大人も子供と変わらないのかもしれない
- 自尊心と学力の関係は相関関係にすぎず、学力が因で自尊心が果であり、学生の自尊心を高めるような介入が、学生の成績をよくすることはない
- 子供を褒めるときは、能力ではなく、努力を褒めた方がよい
- 1時間テレビゲームをやめさせても、男子は最大1.86分、女子は最大2.70分、学習時間が増加するにすぎない
- 同じようなことは、JPSED調査からも見て取れる
- 「TVを観るな」とか「勉強しろ」と言うだけでは学習時間は増えず、横について勉強を見たり、勉強する時間を決めて守らせなければならない
- 社会人の場合も、上長などが指導の時間を取らなければ、自発的に学習時間を増やすことは少ないだろう
- 学力の高い優秀な友人から影響を受けるのは、もともと学力の高い子供だけで、学力の高い友達と一緒にいればプラスの影響があると考えるのは間違いである一方、問題児の存在は、学級全体の学力に負の因果効果を与える
- 教育投資の収益率が最も高いのは幼児教育で、収益率は年齢とともに逓減する
- 社会人の場合も、入社後の数年間に集中投資した方が効率がよいかもしれない
- 「ペリー幼稚園プログラム」における処置群と対象群のIQの差は、小学校入学前にはそれなりに大きかったものの、8歳前後で差がなくなることから、収益率に影響を及ぼすのは認知能力ではなく非認知能力と考えられる
- 認知能力の改善には年齢的な閾値が存在する一方、非認知能力は成人後まで可鍛性のあるものも少なくない
- 本書中では、自制心と「やり抜く力」を挙げているが、他にどんなものが該当するのか知りたい
- 一橋大学の川口教授の研究によれば、学校週休2日制の導入前後で比べると、親の学歴によって、子供の学習時間に顕著な格差が生じていた
- 同じようなことは、「働き方改革」でも起きかねない
- 成果に対してボーナスを与えるよりも、成果に対してボーナスを返還させる方が、そのような教員に教わった子供の成績が上昇した
- 精勤手当のようなものは、その方がいいかもしれない
科学的なアプローチやエビデンスに基づかない主張は、教育論に限らず経営論でも同様です。経営においては「ランダム化比較試験」の実施がほぼ不可能ですので、経験のみに基づいて判断しないよう、常に自分を戒める必要があります。