「サブリミナル・インパクト」
この本に書かれていることを端的に抜き出すと、「世の中は、外界を正確に写し取るという意味での物理的リアリズムではなくて、脳内の神経活動を最大化するという意味でのリアリズムに向かっているのではないか」、「その神経活動を活性化するものこそが最高の快であり、テクノロジーとコマーシャリズムもそれを最大化する方向に突き進んでいるのではないか」ということで、著者はそれを「ニューラル・ハイパー・リアリズム」と呼んでいます。
私にとって面白かったのは、著者が「視線のカスケード現象」と呼ぶもので、PC上に並んだ2つの顔のうちどちらが魅力的かを判断して、判断したら即座にボタンを押すという実験において、「ボタンを押す一秒ぐらい前から視線の向き方が少しずつ偏りはじめ、片方の顔を見ている平均確率がほぼ八〇パーセント以上に増大した時点で、ボタンを押している」という、視線の定位反応です。そして、「視線の定位反応は、「好き」という感情や判断とだけ本質的に結びついているらしい」というのも興味深いところです。
一方、納得がいかなかったのは、感覚刺激の選好や魅力度には親近性と新奇性が寄与していると述べている中で、「新奇なものは高い確率で価値が高い(またはリスクが大きい)」と自ら述べつつ、なぜリスクとしての新奇性を忌避する方が上回らないのかについて一切触れていないところです。
最終章では、独創性を発揮するためのポイントとして、「全体の状況をよく分析し、しっかり把握してから忘れること」によって「顕在知から潜在知に貯蔵し直す」こと、「本能(ここでは潜在認知や情動)の赴くままに遊んでみる」、そして「なぜだか知らないが気になることは書き留める」などによって「潜在知と顕在知の往還をくり返す」ことを挙げています。これらは、私が最近意識的に試みていることと符合しました。
現在の興味範囲と多少異なる内容も含まれていましたが、とても読みやすい本でした。