「発達障害の子どもたち」

発達障害について基本的な知識を得る目的で読んでみました。以下、私にとって参考になった箇所を引用しておきます。

  • 非行のようなわが国では環境的な要因として考えられることが多い問題に関しても、生物学的な素因と環境因とを比較すると、実は前者のほうが圧倒的に高いということはすでに結論が出ている
  • 遺伝子が体の青写真や設計図というよりも、料理のレシピのようなものであることが明らかとなってきた。つまり、遺伝子に蓄えられた情報は、環境によって発現の仕方が異なる
  • 発達障害とは、個別の配慮を必要とするか否かという判断において、個別の配慮をしたほうがより良い発達が期待できることを意味している
  • 計算上は一四パーセントの子どもがこの境界知能の範疇に入る。(略)小学校中学年のいわゆる九歳の壁の前後に、良い教師に当たった境界知能児はこの壁を突破し、知能自体も小学校高学年には正常知能になることが多かった。それに対し、そのような教師に恵まれなかった児童は、ここでハードルに捕まり、知能自体も小学校高学年には知的障害のレベルに下がっていた
  • 発達障害児特に軽度発達障害児において境界知能が多い理由は、発達障害児には、脳の一部の領域の働きは良好でも全体を動かすとなるとだめだという形の機能障害を抱えるものが少なくないからである。
  • 今や自閉症グループは一パーセントを超える罹病率を持つことが明らかになってきた。もっとも新しい広汎性発達障害の罹病率は二・一パーセントである。
  • 元凶の一つとして注意欠陥多動性障害(ADHD)が注目されたが、ほどなく学校教育サイドはこれが誤診であったことに気づくようになった。あまりに対応に困る多動児は、基盤に社会性の障害を抱えている(つまり高機能広汎性発達障害である)ことが多い。
  • 成人に至って初めて診断を受けたグループの相当数は、子どもの治療の過程で、親にも同じ発達障害が認められ、しかもカルテを作成して治療を行う必要が生じたというグループでもある。
  • 中学生以上で診断を受けた場合と小学校年齢までに診断を受けた場合との間に五パーセント水準の統計学的有意差が認められ、小学生のうちに診断を受けた者のほうが成人した後の適応が良いことが示された。
  • 子どものADHDの罹病率は、わが国においては三~五パーセント
  • 現在では今日の脳科学の進展によって、ADHDの症状の背後にはドーパミン系およびノルアドレナリン系神経機能の失調があることが明らかとなっている。
  • 一〇歳という年齢は、一つの臨界点であり、これまでに身に付いた言語や、非言語的なジェスチャーが一生の間の基本となることが知られている。

この本を読んでわかったことは、小学校低学年までの教育と、発達障害児に対する個別対応の重要性ですが、共働き世帯の増加によって小学校教師の責任は増す一方で、待遇面においては厳しい状況に置かれているであろうことが懸念されます。
依然としてわからないことは、どのような環境要因が発達障害の出現率を増加させている(それとも顕在化させているだけな)のか、どのようなメカニズムで発達障害がどの程度まで改善しうるのかということです。接客を要する業務以外での単純労働がテクノロジーの進化によって今後も減少傾向にあると考えると、発達障害に対する治療方法のより一層の進化が求められていると思われます。