「学びとは何か-<探求人>になるために」
心理学者の書いた本。新書で難しい内容は殆どないので、短時間で読めます。
書かれている要旨を一言でいうと、学ぶということは「誤った知識を修正し、それとともにスキーマを修正していくこと」だということになります。スキーマとは、日常的に事象を理解するために、直接言われていない「行間」を補うために使っている常識的な知識のことを指す心理学の用語です。
この本を読み終わって感じた疑問は2つ。
1つは、著者の専門である、子どもによる母語の習得は、大半の子どもが特段のサポートを得ずに可能になるのに対し、各教科の学習においてはその習得になぜ大きな差が出るのかということ。スキーマの修正において言語が邪魔をしている可能性について言及されていますが、それが決定的な要因なのでしょうか。先天的、即ち遺伝的な影響の方が強いのではないでしょうか。一方で、大人の教育においては、言葉を尽くさない方がスキーマの修正を促す機会をより多く与えるであろうことを再認識させられました。
もう1つは、熟達者の持つひらめきについてですが、ひらめき、即ちインサイトを引き出せる人と引き出せない人には大きな差があり、努力によっても埋められない壁があるように思われることです。例えば、「ビューティフル・マインド」の主人公(実在の天才数学者ジョン・ナッシュを描いた映画ですが、映画の内容の多くはフィクションのようです)が、新聞や雑誌に書かれている文字や、ガラス窓に書いた数式から法則性をひらめいたようなことは、世の中の大半の人にはできない芸当に思われますが、そうした能力を集中力や累積量で説明し切るのは難しいように思われます。仮にそうであったとしても、ひらめく速度は人によって相当大きな違いがあります。この能力を人為的に開発可能なのかどうかが現在の私の関心です。認知科学では、「熟達者の卓越したパフォーマンスや思考を支える認知能力」の背後にあり、「すぐれた判断や行動を可能にしている心の中の判断基準」を「心的表象」というそうです。この心的表象を形成する方法に関心があります。