「脳科学が明らかにする大人の学習」
脳科学について新しい知見が得られるものではありませんでしたし、学習という観点でも特段目新しいことが書かれているわけではありませんでしたが、結果として重要な気づきが得られました。
この本で繰り返しふれられていますが、過去の経験から学習に対して恐れや不安を感じる人が多いであろうことは、私自身はこれまであまり感じることがなかったので、この本から気づかされました。また、新たな学習は、過去の知識や経験に結びつけるかたちでなされるということも、改めて認識させられました。
~「教育者は、学習者の脳にある、既存の神経回路から学習をスタートさせる必要があります。」(ジェームズ・E・ズル)
そうなると、個々人によって過去の知識や経験が異なるのですから、社会人の人材育成においても、学校教育と同じく、あるいはそれ以上に、画一的な研修というのは意味がないのではないかと思われます。人材育成においては、ポテンシャルのある人に対して、その人と同じような経験・経歴を持つ人が、その人の思考回路に合わせて指導することが必要なのでしょう。ポテンシャルという意味では、マインドセットを変えるのが一番難しいと思いますので、「フィックスト・マインドセット」ではなく「グロース・マインドセット」を持つ人をそもそも選ぶ必要があります。また、恐れや不安を緩和するためには、より親近感を感じられる人が指導に当たることが有効と思われます。さらに、指導者と学習者の思考回路や成長プロセスの隔たりが大きいと、知識の断片的・一時的な吸収に止まり、学習者自身で物事の意味を理解するまでに至らず、結局は学んだことが忘れられて役に立たなくなるのでしょう。自称「成功者」による研修を受けることや、憧れの有名人の「成功本」を読むことは、きっかけを与えられることはあっても、自身の血となり肉となることはないことを、一般の人は知るべきだろうと思います。