「あなたの知らない脳-意識は傍観者である」

アメリカの神経科学者による2011年の著書。

第1章はイントロダクション。
第2章で基本的知覚における錯覚を紹介しながら、「脳は大部分が閉鎖的なシステムであり、内部で生じた活動を勝手に実行すると考えるのが正し」く、「内部データは、外部の感覚データによって生成されるのではなく、単に調整されるにすぎない」ことを述べています。
第3章ではさらに、それが思考においても同様であることを述べています。第3章で紹介されている「潜在的自己中心性」、「単純接触効果」、「真実性錯覚効果」は覚えておきたいタームです。第3章で、脳について次のように述べられています。

「脳は解決すべき課題を見つけると、その課題をいちばん効率的になし遂げられるまで、自身の回路の配線をやり直す。課題がメカニズムに焼きつけられるのだ。この巧妙な戦略によって、生き残るために最も重要な二つのことを実現できる。」
「第一はスピードだ。自動化によって迅速な意思決定ができる。動きの遅い意識のシステムを列の後ろに押しやらないと、迅速なプログラムは仕事ができない。」
「課題を回路に焼きつける第二の理由は、エネルギー効率である。メカニズムを最適化することによって、脳は問題解決に必要とされるエネルギーを最小限に抑える。」

第4章では、遺伝的に継承される本能なるプログラムも、意識がアクセスすることのできないメカニズムに焼きつけられていることが述べられています。

私が最も興味深く読んだのは第5章「脳はライバルからなるチーム」です。

「本章で最も重要な教訓は、あなたのなかに要素と部品とサブシステムがそろった議会があることだ。私たちは局所的なエキスパートシステムの集まりにとどまらず、たゆまず再考案される重複したメカニズムの集まりであり、競争する党派の集団である。」
「心の社会の住民は、毎回まったく同じように投票するのではないことに注意してほしい。」

「意識は会社のCEO」という説明は理解しやすく、また「本性」なるものを問題にすることは意味がないことも理解できました。

第6章は自由意志と有責性について、第7章は自らの意識が自分自身の支配者でないことを知ることの意義について述べていますが、どちらも私にとってはさほど有意義と感じられる内容ではありませんでした。

自身の多くは意識がアクセスできない脳内のメカニズムによって動かされているとして、意識が能動的に持つ意味とは果たして何なのでしょうか? 著者は、「意識は長期計画を立案する会社のCEO」であると述べていますが、ではその長期計画とは何に基づいて(何の目的で、何をきっかけにして)立案されるものなのでしょう? それもまた、受動的な外部情報の受容の積み重ねによって焼きつけられたメカニズムによって、あたかも能動的に「ひらめいた」かのように現れるにすぎないものということでしょうか。とすれば、理由や目的を求めて「意識的」に外部情報を受容することもさして意味のないことなのか、いろいろと考えさせられます。