「単純な脳、複雑な「私」」

メディアでよく見かける池谷氏が、10年ほど前に高校生向けに講義した内容をまとめたもの。前半は読み物としては退屈しなかったものの、特に示唆は得られませんでしたが、「3-45 脳のゆらぎを目の当たりにする」以降は大変興味深く、ハイペースで読み進めることができました。

「脳回路の内部には自発活動があって、回路状態がふらふらとゆらいで」おり、「「入力」刺激を受けた回路は、その瞬間の「ゆらぎ」を取り込みつつ、「出力」している」、というのは今まで聞いたことがありませんでした。そして、「環境や外部からの刺激が、脳のゆらぎのパターンをロックしてくれて、だからこそ、僕らの行動は完全なランダムではなくて、場面や状況が似ていれば、毎回だいたい同じ行動を取ることができる」、「つまり、僕らの意志は環境によって決定されている」、というのは至極合点のいくものでした。

この脳のゆらぎ=ノイズには3つの役割として、「①効率よく正解に近づく(最適解への接近) ②弱いシグナルを増幅する(確率共振) ③創発のためのエネルギー源」があるとのことです。「確率共振」とは、「シグナルを検出する過程で、入ってきた情報があまりにも弱いときに、本来ならば検出できないようなものでも、ノイズがあると、検出できるようになる」現象のこと。「創発」とは、「数少ない単純なルールに従って、同じプロセスを何度も何度も繰り返すことで、本来は想定していなかったような新しい性質を獲得する」こと。これらは、AIやイノベーションについて考えるうえで、非常に示唆的です。

個人的には、アルファ波を減らす方法について興味がありますが、フィードバックがあれば制御可能になる、というのは俄かには信じられないことではあります。