「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」

タイトルから敬遠していましたが、「直感と論理をつなぐ思考法」を読んだ流れで読んでみました。「美意識」を括弧書きしている意味が分かって、もっと早く読んでおけばよかったと思いました。ダマシオの「デカルトの誤り」を引用していたりして、興味範囲が私に近しいことに親近感を覚えましたが、私よりはるかに多くの本を読まれていることに感心し、読んでみたい本が幾つか見つかりました。

この本は既に16刷に達し、よく売れているようですが、この本を手にするのはどんな人なのでしょう。エリートを自称する人がそんなに多いのか、エリートを目指す自称意識高い系の人が多いということなのでしょうか。

書籍の内容については、新書であり、安くかつ短時間で読めるものですので、まずは読んでみることをお薦めします。私にとって気づきや発見があったものを、備忘のために記しておきます。

  • エドワード・デミング博士の原文は、”It is wrong to suppose that if you can’t measure it, you can’t manage it – a costly myth.”(測定できないものは管理できない、と考えるのは誤りである。これは代償の大きい誤解だ。)
  • 千利休は、世界最初のクリエイティブディレクター。
  • デザイン思考は、直覚的に把握される「解」を試してみて、試行錯誤を繰り返しながら、最善の解答に至ろうとするもので、問題解決の手法であり、創造の手法ではない。
  • 「ストーリー性だけは、コピーされてもオリジナル価値が揺るがない最後の価値である。」(濱口秀司)
  • コーン・フェリー・ヘイグループのリーダーシップアセスメントによれば、変化の激しい状況でも継続的に成果を出し続けるリーダーは「セルフウェアネス=自己認識」の能力が非常に高い。
  • 前頭前野は「美を感じる役割」を担っているらしい。
  • マツダのデザイン本部長である前田氏曰く、「アートと呼ぶことができるレベルの作品とは、説明がなくとも、一目見たその瞬間に人を感動させられるものでなくてはならない」

大変参考になる本なのですが、「直感と論理をつなく思考法」と同様の違和感が残りました。著者は、ヘンリー・ミンツバーグの言う「アート」「サイエンス」「クラフト」のバランスを主張されており、それは異論のないところなのですが、著者が昨今偏重されているとする「サイエンス」についてさえ、はたして日本企業が十分に高い水準に達しているといえるのかについて、私には疑問があります。これはエリート大企業やエリート・ベンチャーを見るか、中堅以下のオーナー企業を見るかによって、印象が分かれるのかもしれません。後者と接することの多い私にとっては、未だに個人的経験や感性に偏った判断をしているケースや、「言語化できる」「再現性がある」、サイエンティフィックな判断基準を持たない会社も少なくないと感じています。その顕著な例の一つが、著者が身を置かれているHR領域で、だからこそHR Techが注目されていると考えられるのではないでしょうか。この点、著者も「論理や理性をないがしろにしていい」とは決して主張していないのですが、全体的なトーンから、直感こそが一義的に重要だと勘違いする人がまた復権しかねないのではないかと懸念されます(杞憂でしょうか?)。

また、「美意識」や「誠実性」が重んじられる経営が私にとっても理想的ではあるのですが、実際に中小企業の経営に携わったり、これまで中堅以下のオーナー企業とふれる機会の多かった立場から言うと、現実の世界は「エリート」の想像を超える不合理さや醜悪さに満ちていると感じています。松浦静山の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉についても、私にとっては、「偶然の科学」に書かれていることの方がしっくり来ます。