「ソーシャル物理学」

タイトルや帯に釣られて買ってみましたが、期待したような内容ではありませんでした。そもそもタイトルからして、文中で使用されている「社会物理学」とすべきです。

社会物理学という命名は、「通常の物理学の目標が「エネルギーの流れがどのように運動の変化をもたらすか」を理解することであるように、社会物理学は「アイデアや情報の流れがどのように行動の変化をもたらすか」を考察する」ものであるからとのことですが、少なくとも本書で示されている内容は物理学のように科学的ではないし高度に理論的でもありません。「ソシオメトリック・バッヂ」なるセンシングのためのハードウェアと「ファンフ(funf)」なるスマホのソフトで大量のデータを収集し分析した結果として述べられているのが、「多様性から生まれる集合知が重要」「SNSよりFace to Faceの方が強い影響を及ぼす」という目新しさを感じないもので、仮にそれが必要条件といえるとしても十分条件や決定要因といえるのかどうかについては明確になっていません。どんなデータから何が分かるのかが具体的に示されていないため、肝心の主張が正しいのかどうか、読み手が判断することもできません。これで物理学を謳うのはおこがましいのではないでしょうか。都市と社会について述べられている第8章以降は、そもそも分野的に興味がなかったのと、第7章までの内容でそれ以上読み進める気にならなかったので読んでいません。

本では出し惜しみしているだけで、本当はもっと精緻な研究がなされているのだろうと思い、著者が会長となって設立されたソシオメトリック・ソリューションズという会社のURLを叩いたところ、Humanyzeという社名に変更されていて、Web上には特段学術的な内容は掲載されていませんでした。解説で挙げられている「職場の人間科学-ビッグデータで考える「理想の働き方」」や「データの見えざる手-ウエラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」を読めば、この本で感じたもやもやが少しは解消されるのでしょうか。

それでも幾つか参考になる内容はあったので、備忘のために記しておきます。

  • 最善の学習戦略は、エネルギーの90パーセントを探究行為(うまく行動していると思われる人を見つけてそれを真似する)に割くことだった。そして残りの10パーセントを、個人による実験と考察に費やすのが良いという結果になった。
  • 心理学の研究によれば、瞬間的な判断とじっくりと熟慮した上での意思決定を比較した場合、前者の方がより利他的で、協力的であるそうだ。
  • 人々が他人と協調して同じ行動をしている場合(略)、共同作業の報酬として、体からエンドルフィンが分泌される。エンドルフィンは天然の麻薬のような物質で、強い幸福感を与える。
  • 何が集団的知性の基礎となるのだろうか?これは予想外だったのだが、集団のパフォーマンスを上げると多くの人々が一般的に信じている要素(集団の団結力やモチベーション、満足度など)には、統計学的に有意な効果は認められなかった。集団の知性を予測するのに最も役立つ要素は、会話の参加者が平等に発言しているかどうかだったのである。
  • KEYS(注:創造性のアセスメント手法)のデータを分析した結果、創造性が高かった日ほど、より多くの探求とエンゲージメント(注:本書中の定義は「人々の交流のネットワークによって行動変化が起きるプロセス」)が行われていたことが判明した。